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研究内容

1.ネコの嗅覚コミュニケーションに関する研究

近年のネコブームで、ネコの行動や生理に関する様々な情報がインターネット上にあふれています。しかしこれらの情報は何か根拠に基づかれて記述されているものばかりではなく、他の動物の知見からネコで推測されることが書かれていたり、その推測がいつの間にか事実のように書かれてしまっているものも多数あります。例えば、ネコが尿をマーキングして縄張りを作ることは、一般の人にも広く知られています。別のネコがこのマーキング尿を嗅いで、縄張り主の個体情報を入手していると言われています。しかし化学的根拠は十分得られていません。

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 つまりネコの尿から揮発するどの化合物が、種や性、年齢、個体、健康状態を反映する嗅覚シグナルとして機能しているか、においを嗅いだネコが本当に個体識別までしているか、よく分かっていません。そこで当研究室では、行動レベルから物質レベルまでネコの嗅覚コミュニケーションの分子基盤解明に取り組んでいます。具体的には、行動解析でネコの尿臭識別能力を調べたり、ネコの尿から揮発する化合物を網羅的に解析して、ネコ特有な化合物や性差、個体差で変動する化合物群の同定を行っています。また生物活性を指標に個体識別に重要な化合物の同定も目指しています。

2.ネコ特異な脂質代謝機構に関する研究

種の識別に重要な化合物がどのような代謝系で生産されているか調べています。私たちは、ネコが完全肉食に適応する過程で、脂質代謝経路を他の動物と大きく変え、ネコ特有な化合物が生成されることを突き止めました。興味深いことにこの発見した代謝系は、ヒトでもごく僅かに機能していることを見出しました。現在は、なぜネコでだけこの代謝経路が亢進しているのか分子メカニズムの解明を目指しています。このようにネコの研究は、ある化合物が進化の過程でどのように嗅覚シグナルになったかを理解することに留まらず、ヒトで見逃されている代謝系の発見にもつながる重要なものと考えています。

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*おもちゃです

3.ネコのマタタビ反応に関する研究

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「ネコにマタタビ」ということわざがあるように、ネコがマタタビを大好物とすることは日本人に広く知られています。ネコがマタタビを見つけると舐める・噛む・顔を擦り付ける・地面にごろごろ転がる、といった特徴的な「マタタビ反応」を示します。ネコのマタタビ反応は、300年以上前の書物に記されており、浮世絵「猫鼠合戦」にはマタタビでネコを酔わせ腰砕けにしているネズミの様子が描かれており、江戸時代には既に大衆文化に取り込まれていたようです。このネコの現象を引き起こすマタタビ活性物質は60年以上前、目武雄(さかんたけお)博士らの研究によって、「マタタビラクトン」と呼ばれる複数の化学成分であると報告されていました。この反応は、ネコに限らずヒョウ、ライオンなどのネコ科動物にも見られますが、なぜネコ科動物だけがこれらの化学物質を含む植物に特異な反応を示すのか、マタタビ反応の生物学的な意義については全く分かっていませんでした。そこで私たちはこれらの謎の解明を目指して研究を行っています。

4.におい形成に重要な化合物を特定する分析法の開発

私たちの身近に存在する食料品や飲料、芳香剤や消臭剤等の雑貨品には、様々な香料が含まれています。一般に香料は、花や草木、果物等が発する天然物のにおい(香気)に似せて作られます。天然物が発する香気は、数十から数百もの化学物質が複雑な組成比で混ざり合って形成されていて、化学物質の種類や組成比の違いで多様な香気が形成されます。しかし天然物から発せられる全ての化学物質が香気形成に重要なわけではありません。たくさん存在する化学物質の中には、香気にほとんど寄与しない成分や全く寄与していない成分も多数含まれます。よって、香料の開発現場では、天然物が発する化学物質の中から、香気形成に重要な化学物質だけを効率的に同定したいという要望が常に生じています。またこのような技術は、食品や工業製品の異臭の原因究明や動物のフェロモン同定など基礎研究分野でも切望されています。

​ 当該分野では、ガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)という分析装置が多用されています。これは、香料の成分をカラムと呼ばれる部分でバラバラにして、分離された成分ごとに質量分析計に導入して化学構造を同定する装置です。GC/MSを使えば、香料を形成する各成分の化学構造の情報とそれが単体でどのような香気を持つか調べることができます。しかし混合物の中で、それが全体の香気形成にどの程度重要なのかまで調べることはできません。そこで既存のGC/MSを改良して、香気形成に重要な化学物質を簡単に同定できる画期的な分析装置「アロマデザイナー」を島津製作所と共同開発しました。これは、天然物の香気成分の組成を自在にアレンジでき、例えば香気からある化学物質が消失したらどのような香りになるか、ある化学物質が別の化学物質に置き換わったらどのような香り変化が生じるか、官能評価するための香り試料を容易に準備できます。今後は、食品香料や家庭で一般的に使われる芳香剤・消臭剤などの開発、環境や工業製品の異臭の原因究明など私達の暮らしに役立つ様々な成果が得られると期待されます。

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